恋と愛は 違うね 別れ




満たされない日々に 突然の転勤命令が彼に出された。

隣の県の酒屋の店長の役職

 おめでとう、出世でしょ?

本心じゃない、何がめでたいのか?自分が何を言っているのか さっぱりわからなかった。

 N課長は私に 無理難題を言い始めた。

 娘と一緒に 着いてきてくれる?できるだけ早く返事がほしい。

 

久しぶりに3人会で送別会となった。

 彼から これからどうしたい?返事は?と 何度も問われる。


こらえていた気持ちが爆発した。

子供のように泣いてしまった自分が情けなかった。

マツコまで もらい泣きする始末


答えは ごめん 着いていけない。

どうして?来てくれると思っていたよ と言う。


行けるわけないじゃん 娘と知らない土地で暮らすほど強くないよ

家族で引っ越すんでしょ? N課長の家族は引っ越す理由は聞かれても 子供の転校だって お父さんの転勤で…

説明できるよね。 

私と娘は引っ越す理由を理解できない人の方が多いよね きっと

本当は着いていきたいよ、でも娘の事を思えば ダメなんだよ。


彼は転勤していった。

後任の総務課長もきた。

いつもの席に あの人は もういない。

寂しさと後悔が 波のように押し寄せては 静かに弾いていく


後任課長は あなたが向坂さん?N課長と噂の…

何なのだ?

毎日 笑いながら言われた。

耐えきれず 健康上の理由でパート勤めを辞めることにした。

マツコには必死で 止められたが 私の居場所など どこにもなかった。


ある日マツコがN課長に連絡し 転勤先で3人会が実現した。

彼は駅まで迎えに来てくれていた。

知らない土地での再会 彼は痩せ細って疲れきった顔をしている様子カラオケボックスで半日程度 過ごした。

本当にこれが最後になるかもしれない 色々思い出しては 勝手に涙がこぼれる。

駅まで見送ってもらった。

彼からメモ書きを渡され 今度連絡するから 一人で来て と書いてあった。

嬉しい気持ちばかりではなく 失業中の私に 会いに行く余裕など どこにもない。


連絡を待っている期間 職に就いては長続きせず 何度目の自暴自棄が訪れる。

恋と愛は 違うね 罪と罰2




事故の時に交通渋滞で 動かない車列のなかに N課長を乗せた店長の車が駆けつけようとしていた。

N課長は救急車のサイレンも近いから万が一の事を考え 車から降りて現場まで叫びながら走っていた。

マツコから聞かされた悪夢の日の出来事だった。

事故現場付近には 同じ会社の人がその姿を何人も目撃していたそうだ。

N課長と私の噂話は もう誰にも止めることはできないくらいだったそうだ。

 

私は怪我をしていたので 仕事にもいけない状態だった。

休んでいる間に 引っ越しも重なり 心身ボロボロ

何より離婚して引っ越しも済んだのに N課長に自由に会えるはずが 全然連絡もない。

どうして自由になったのに 会いにも来てくれないのか 寂しさと不安に押し潰されそうになっていった。

声だけでも聞きたい 本当は会いたい

こんな気持ちは 彼にはないのだろうか?

もしかして このまま終わりなのかな~


よく考えてみれば 一番不安なのは 小学生の一人娘のはず

何をやっても上手くいかない

仕事も休んでいたので 金銭的にも かなり厳しい状況になっていた

世の中で 娘と私 取り残されたような日々

勤務先に連絡をして 仕事に復帰したいと伝えた。

N課長が 電話に出て まだ無理をしない方がいい 止められた。

もう自分はどうなってもいいから 娘だけは幸せになってもらいたい

店長に復帰のお願いをした。 

厳しい言葉しか告げられなかったが 誰のせいでもない。


職場に無事 復帰でき 居心地は悪いが 生活のため時間に追われるだけが救いだった。

N課長のいる事務所には 用事を貯めて 顔を合わせることを最小限にしていた。


休憩時間もマツコとだけの ひそひそ話

心配してくれているのは マツコだけだった。

 N課長も つまらなそうに仕事してるよ、このままで終わるの?

そんなこと 誰にもわかるわけない。


数日後 N課長から 私の家でクリスマスパーティーをマツコも呼んで楽しくしよう 

当日 買い物や食事の支度にと てんてこ舞

でも 楽しかった。

久しぶりに N課長とマツコの酒癖悪い 面倒さも心底娘と笑った。

何度となくN課長が 私の家に仕事帰りに立ち寄ってくれた。

嬉しいはずなのに なにか満たされない。

慣れっこに なってしまっていた。

彼が必ず 傍にいることが私の中で 当たり前だった。

恋と愛は 違うね 罪と罰



私は 娘に夫との離婚を話した。

娘は 迷わず 私を選んでくれた。

私は娘との新生活を夜な夜な考えていた。

住まいや 諸手続きのことをマツコに相談した。

話しは休憩時間ではおさまらず 仕事が終わりマツコを家に送り届けながら車中での相談が

 何日も続いた。

 

全く会話のない夫と久しぶりに 話しかけた。

 離婚届を書いてあるから 自分の所を書いて 明日出したいから。

 それと今急いで家を探しているので 見つかり次第 娘と出ていくね。

 明日までには書いとくから 置いといて と視線すら会わせなかった。

これでいい。

あとは 職場の近くに引っ越そう

気持ちは晴れ晴れ、早く引っ越そう

念願叶い 職場に比較的近い公団住宅に 入居できることになった。


マツコに色々お礼が言いたくて 私は仕事の休みに マツコの仕事が終わる時間を待ち、送って帰る予定だった。


信号待ちで先頭にいたマツコを乗せた私の車に対向車の真っ赤な普通車が猛スピードで ぶつかってきた。

私の車は後ろに下がり後続車にバウンドを繰り返した。

平日の夕方ともあり通勤ラッシュで大渋滞

何が起きたのか 記憶がなかったが、マツコから状況を後に聞かされたのだ。


気付けば救急車に乗っていた。

夢か幻か N課長の声が聞こえてくる

マツコが職場に連絡して N課長が店長の運転する車で駆けつけたそうだ。

私は血まみれになっていた。

引っ越しを控えており 免許の更新も近く 慌ただしいはずの日々が警察通いとなった。